取組事例Our Approach

2018

Products

2018.10.31

ハイブリッド車用新型パワーコントロールユニットのパワーモジュールケースに液晶ポリマー ラぺロス® が採用されました。

㈱ケーヒン

自動車産業はいま大きな変革の時代を迎えています。ますます重要になってきた地球環境問題を背景として、これまでにも増して省エネルギー化や厳しい排ガス規制などが進められています。自動車メーカーでは、こうした問題に対応するため、ハイブリッド車をはじめ、電気自動車、燃料電池車など、従来の内燃機関に代わる駆動システムを開発しています。なかでも、ガソリンエンジンと駆動用モーターの2つを動力源とするハイブリッド車はいち早く商品化され、いまでは広く普及しています。
株式会社ケーヒンは、本田技研工業株式会社系の最大手の自動車部品メーカーであり、あらゆるエネルギーをマネージメントするシステム総合メーカーとして、次世代の内燃機関に代わる駆動システム向け部品の開発をいち早く手掛けてきました。

2015年10月に開催された東京モーターショーで、ケーヒンは、ハイブリッド車の発電用・走行用モーターをコントロールする自社開発の新型パワーコントロールユニット(PCU)を発表、11 月にはその中核部品であるインテリジェントパワーモジュール(IPM)の量産化を開始しました。この IPM は、2016年2月に発表されたホンダの「アコードハイブリッド」に搭載されています。
このIPMは、小型・高性能化を達成し、これによってPCU自体の小型・軽量化も実現しました。この高性能化を支えた技術のひとつがポリプラスチックスのラぺロス LCPです。株式会社ケーヒン 開発本部第七開発部第二課 友田 真一郎氏、飯田 寛明氏にお話をお聞きしました。

パワーコントロールユニット(PCU)、
インテリジェントパワーモジュール(IPM)の働き

ハイブリッド車は、ガソリンエンジンと駆動用モーターを動力源とします。モーターを動力源として利用するための電力をコントロールするのが、PCU の役割です。
PCUは、バッテリーから供給される電圧を、駆動用モーターを駆動するための電圧に変換し、クルーズコントロール*1による定速走行時や加速時にモーターの駆動力をアシストします。もうひとつは、発電機で発生する電力をバッテリーに充電するためのDC電流に変換するという働きです。また、減速時に発電することで電力を効率的に回生する、という役割もあります。PCUは、昇圧コンバーター、モーターを駆動・回生するインバーター、インテリジェントパワーモジュールなどで構成されています。
インテリジェントパワーモジュール(IPM)は、PCUの中核をなす半導体複合部品です。ケーヒンは、IGBT*2や還流ダイオード*3などの低損失と、高耐熱、小型化を最適な冷却構造で実現することで、PCUとしてはトップクラスの出力密度を実現しました。
今回開発したIPMは、PCUのほぼ中央に位置しており、その中には、サブポンプがハンダ付けで実装されています。モジュールの下には、ウォータージャケットが設けられ、冷却の役割を果たしています。また、モジュールの上部にはゲートドライブ基板が設けられています。
PCU全体の大きさは、このIPMケースの大きさで決まってきます。ケーヒンはIPM部品の技術革新によってPCU全体の小型化を実現しました。

*1 クルーズコントロール:アクセルを踏まなくてもドライバーがセットした速度を維持したまま走ってくれる機能

*2 IGBT:絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタの略称。電気エネルギーを制御するために使われる半導体スイッチング素子の1つ

*3 還流ダイオード:モーターを駆動する際に生じる負荷電流を還流させ、IGBT を保護する目的で使用されるダイオード

ホンダのハイブリッドシステム
http://www.hybrid-car-guide.com/kisotisiki-info/t-h-tigai.html からの引用

新パワーコントロールユニット(PCU)

PCU に収まったインテリジェントパワーモジュール(IPM)
上部にゲートドライブ基板が載る

インテリジェントパワーモジュール(IPM)
下部に冷却用ウォータージャケットを配置

ラペロス(LCP)成形品としては最大級の大きさのIPM ケース

インテリジェントパワーモジュール「ケース」には、耐熱性、絶縁性、ハンダの接合性、接着特性、ゲルの封止などの機能が求められます。これを実現するため、使用する樹脂材料には、高耐熱性、絶縁破壊強さ、材料の強度、成形時の流動性、低アウトガス性など、いくつもの高機能特性が求められます。

●ハンダ耐熱性

なかでも、耐熱性に関しては、IPM製造工程の中に、ケースを含めたはんだ付工程があり、樹脂の表面温度は非常に高くなり、それに耐える樹脂材料が求められました。そこで選ばれたのが、LCP ラぺロス S135ガラス繊維入りのグレードで、これを採用することで、業界トップクラスの小型化、高出力を達成できたと言われます。

●高流動性とウエルド強度

IPM ケースは、ラペロス LCPの樹脂成形品としてはこれまでにない寸法の大きいものでありながら、求められる精度はコネクターなどの、これまでの小型精密部品と変わらない高精度が求められました。また、IPMケースの中には、バスバーと呼ばれる銅板が縦横無尽に入っており、それに樹脂をかぶせる形になっています。金属との複合は、接着剤を使わずに組み合わせで成形しなければなりません。そのために生じた複雑な成形条件に関しては、協力成形加工メーカーに助けられたところが大きかったそうです。
LCP成形品は、ウェルド強度に課題があり、IPMの製造工程では熱がかかる際にウェルド部が割れるといった問題が生じないようにしなければなりません。ここで大きな役割を果たしたのが、ポリプラスチックス TSC(テクニカルソリューションセンター)が提供した流動解析データでした。実は、LCPの大型部品に関しては、蓄積されたデータが少なく、なかなか十分に応えることができなかったのですが、ケーヒンと成形加工メーカー、そしてポリプラスチックスの 3 社間でデータをキャッチボールするなかで、ウェルド強度の課題を克服した製品を作ることができたのです。

●寸法安定性―そりの問題

もうひとつ大きかったのが、寸法安定性、特にそりの問題でした。IPMは冷却のためのウォータージャケットの上に載せる構造となっています。冷却効率は IPMの性能に大きく影響するため、ジャケットの上には隙間なく載るような形状に成形しなければなりません。さらに、いかにそりのない形状設計をするかについても、流動解析データや協力成形加工メーカーのノウハウに助けられた点が多かったと言われます。

●さらに求められる耐熱性と小型・高性能化

LCP材料は高価であるだけではなく、このように成形加工に関しては独特の難しさがあるのですが、IPMの製造プロセスに耐える耐熱性と信頼性を有する材料は、開発の当初からラペロス S135以外には考えられませんでした。他の材料を使った場合は、成形時のふくれが発生するなどの問題があり、総合的にラペロス S135の採用には何の疑問もありませんでした。
今回のラペロス LCP採用は、製造プロセスにおける流動工程などの耐熱性に対応してのものでしたが、今後、PCUの型・高性能化がさらに進むと、IPM自体への耐熱性の要求が一層高まることが考えられます。

クリーンルームでの流動工程を克服

IPMは大型部品ですが、半導体の複合部品であるため、製造プロセスはすべてクリーンルーム内にあります。最終的に完成した状態になると、封止材のシリコーンゲルを封入し、その段階で、ようやくクリーンルームの外に出すことができます。そこまでいけば安心なのですが、クリーンルーム内での流動工程は、ケーヒンにとっても新しい挑戦でした。
ケーヒンでは、宮城第二製作所にクラス 10,000のクリーンルームを設置し、革新的なベアチップ実装ラインや高度な解析技術を取り入れた生産ラインを新たに導入しました。
今回の IPMは先進環境対応製品としてハイブリット車だけではなく、電気自動車をはじめ次世代のモビリティとして期待される燃料電池車にも技術的に応用が可能で、今後の自動車における電動化の進展に大きく貢献できる製品です。新型パワーコントロールユニットはケーヒンの大きな研究開発の成果として、今後の展開が期待されています。

ラペロス LCP S135の一般的性質

項目 単位 試験方法 高耐熱・高温剛性
S135
標準
カラー VF2001/BK010P
ISO(JIS)材質表示   ISO 11469
(JIS K6999)
> LCP-GF35 <
密度 g/cm3 ISO 1183 1.66
吸水率(23℃、浸漬24hr) ISO 62 0.02
引張強さ MPa ASTM D638 155
引張伸び ASTM D638 1.3
曲げ強さ MPa ISO 178 220
曲げ弾性率 MPa ISO 178 16,000
曲げひずみ   ISO 178 2
シャルピー衝撃強さ(ノッチ付) KJ/m2 ISO 179 / 1eA 12
荷重たわみ温度(1.8MPa) ISO 75-1,2 340
荷重たわみ温度(0.45MPa) ISO 75-1,2 340
絶縁破壊強さ(1mmt) kV/mm IEC 60243-1 40
絶縁破壊強さ(3mmt) kV/mm IEC 60243-1 20
体積抵坑率 Ω・cm IEC 60093 2×1016
比誘電率(1KHz)   IEC 60250 3.9
比誘電率(1MHz)   IEC 60250 3.8
誘電正接(1KHz)   IEC 60250 0.01
誘電正接(1MHz)   IEC 60250 0.01
耐トラッキング性 V IEC 60112 150
耐アーク性 s   138
成形収縮率
(80□×1mmt、流動方向、射出圧60MPa)
弊社法 0.08
成形収縮率
(80□×1mmt、直角方向、射出圧60MPa)
弊社法 0.52
ロックウェル硬度 M
(スケール)
ISO 2039-2 90
燃焼性   UL 94 V-0
ULイエローカード File No.     E106764